がちゃのメモ帳

Jリーグをメインに、いろいろな感想を残していきます

【FC東京】2022年 アルベルトーキョーの歩みを振り返る

約4年間務めた長谷川監督の退任。そして新潟を躍進させたアルベル監督の就任。前任者からスタイルが大きく異なる指揮官になり、大きな期待と大きな不安、その両方が入り混じる複雑な心境だったファンも多かったはず。そんなアルベル初年度の成績と歩みについて、感じたことを記録に残したいと思う。

 

成績

14勝7分13敗

勝点:49

順位:6位

例年に比べると勝点の割に順位が高いというトリックはあるが、大変革の初年度としては十分に満足できる数字だろう。

個人的に最も評価できるポイントは「降格ラインが一度もちらつかなかった」こと。新しいチャレンジをする上で「自分たちの取り組みを信じられなくなる」のは最も危険な状態であり、それを回避するための1つの条件として最低限の勝点を獲得することが挙げられる。数字で見ると、最初の10試合で獲得した勝点は18。第11節から3連敗&4戦勝ちなし(内容にも不満あり)と“第一次お悩み期”を迎えたが、それまで貯金があったこと、そして清水戦で負の流れを断ち切ったことが非常に大きかった。

1年間を通してみても、第4節から最終節まで1ケタ順位をキープしているのは素晴らしいの一言に尽きる。

 

序盤の勝点獲得に貢献したのは間違いなく守備陣。新スタイルへの適応に不安があった一方で、守備力には定評がある選手たちが多く、スウォビィクを中心に頑張ってくれた。勝点18を取った開幕後10試合で喫した失点がわずかに5という非常に優秀なデータがその奮闘を物語っている。

ちなみに、チームMVPを1人挙げるとしたら個人的にはスウォビィクを選ぶ。序盤戦に彼のビッグセーブで取った勝点が、スタイル浸透を進める上での第一歩を作ってくれたからだ。

 

また、1年を通じて選手からチームのやり方に不満を示す雰囲気はまったくと言っていいほどみられなかった。(勝点推移が前提条件にはなるかもしれないが、)それは長友や東といった、スタイル変更の割を食いそうなベテラン陣が前向きに取り組み、成長を遂げたことが一因に挙げられると思う。途中で移籍してしまったが、髙萩と永井も同様。チームの先頭に立ち、周りからの信頼も厚いであろう彼らが必死に吸収しようとする姿を見て、ほかの選手が何も感じないことはないだろう。想像のレベルにはなってしまうが、アルベル監督も彼らに支えてもらった部分はあると思う。

 

 

1年間の大まかな歩み

現実路線で勝点積み上げ(開幕~第22節)

サイドの連係構築&リスクをかけすぎないビルドアップ(開幕~第10節)

アルベル監督がまず取り組んだもので、分かりやすくピッチ上に現象として現れていたことはサイド攻撃の構築。4-1-2-3のシステムを用い、WG-IH-SBの3人がそれぞれポジションを入れ替えながらペナルティーエリアの角を狙う動きがよく見られた。ボール保持時はこれを攻撃の軸にしていた印象。

また、このパターンを出すために、ビルドアップも「いかにWG(もしくは高い位置へ上がったSB)へ届けるか」が優先順位の上にきていた印象がある。上述のサイド攻撃を発動させるためには、大外の高い位置で張ったWGに預けることが先決になるからだ。

いま振り返ってみると、序盤は紺野とアダイウトンというサイドに張って受けるタイプの両WG、小川と渡邊というインサイドワークを苦にしないSBでセットを組ませていた。流動的にポジションを入れ替えるよりも、ある程度役割を固定させ、目指すスタイルの基礎作りをしていたと受け取ることもできる。

 

ただ、ポゼッション意識を高めながらも、実際にゴールを奪った形はカウンターが多かった印象。これは、シーズン半ばくらいでアルベル監督が「理想よりも現実を見ながら戦っていた」といったニュアンスのコメントを明かしたとおり。ロストしても致命傷になりにくいといった理由でサイド攻撃を軸に据えて保持の練度を高めつつ、長谷川監督体制の強みであった縦に速い攻撃でスコアに結び付ける。そういうバランスのとり方だったのかもしれない。

 

 

サイド攻撃への対策が進んだことによる停滞(第11節~第22節)

ボール保持における軸がサイド攻撃だったと記したが、逆に言うと中央を経由する組み立てができない(やらない)傾向があった。10試合も過ぎれば相手チームがそれに気づき始めるのも当然であり、第11節の福岡戦からは、今まで目を背けていた部分のツケを払うことになる。相手の対策としては、CBにプレスを掛けてSBへ誘導し、そこで圧縮するといったシンプルなもの。リスク管理として前に蹴ってしまう選択肢もあるが、ボール保持の強化を目指している以上、「簡単に捨てたくない」という意識が強かったのだろう。SBのパスミスからカウンターを受ける場面が頻発したと記憶している。

理想どおりにいかずともイーブンな展開には持ち込めていたが、この時期から最後の我慢が利かなくなってきたことも問題を根深くしていたように感じる。序盤戦は防戦に回っても耐えて勝点を取ってきた。一方、第11節の福岡戦からはセットプレーでの失点や、終盤に決勝点を献上するケースが連続して起こる。第14節の柏戦も結果的に0-0だったが、終了間際の失点がVARの確認によって取り消され、命拾いした。内容が悪くとも引き分けに持ち込めていれば見る側の印象も変わっていたはずだ。

 

4戦勝ちなしで迎えた第15節の清水戦、その直後の鹿島戦で快勝を収めるが、これは東京が急成長を遂げたというよりも、相手がサイド攻撃を許容してくれたことが大きく影響していたと思う。

清水戦は東が初めてアンカーに入った試合で、次のステップが見えた試合でもあったが、先制点はサイドでの前進がきっかけで、鹿島戦の先制点もかなり似た形だった。ただ、相性的な話はあれど、サイド起点の攻撃の質が上がったという点に関しては自信を得られるタイミングになったと思う。

その後は内容・結果に波がありながらも1試合1点以上の勝点を積み上げていった。

 

 

中央経由の組み立て解禁(第23節~)

アンカー入れ替えに伴うスタイルの変化

2022を語る上で、大きな分岐点となったのは青木の離脱によるアンカーの選手変更。ちょうど折り返しくらいの時期から東がアンカーに定着した。

ただ、東が入ってからいきなり変わったわけではなく、保持のチャレンジが明確に見え始めたのは第23節の広島戦からだったと記憶している。大体残り10試合くらいになった時期。前の試合から2週間の空きがあったため、その期間を生かして落とし込みを進めたのかもしれない。残留にメドがたったということで、一歩踏み込んだのだろう。

 

保持面の変化

中盤中央に残ったアンカーやIHを経由しながら前進していく組み立てが明らかに増えた。ボールホルダーが中央につける選択肢を得たことで、プレス回避および前進の質が向上。ミスの内訳も、前半戦にみられた消極的な判断や強引なプレー選択が減り、「プレー選択は間違っていないが、技術的なエラーが起きた」という現象のパーセンテージが増えていたはず。

また、選手にもそこまで戸惑う様子がなかったので、これまでも練習ではやっていたものの、本番でのGOサインが出なかったのではないかと勝手に想像している。

 

非保持面の変化

青木は最終ラインの前に残って相手の攻撃を遅らせる役割が多かったのに対し、東は前線のプレスに連動してボールを奪いに行くアクションがメインだった。前者は一気にゴールへ迫られにくくできるできるが、自陣での守備の時間が増えやすい。後者はボールを奪えれば高い位置での攻撃を続けられるが、取れないと一気にゴールに向かわれるというメリット・デメリットがある。

ゲームを落ち着かせるためには青木のような役割が必要であり、勝点の貯金を作る上で良い働きをしてくれたと言える。ただ、ボールを持つ時間を増やすためには東のようなアクションが重要であることも事実。青木→東の入れ替えは結果的にスタイルを一歩進めるきっかけになったかもしれない。そして、東が自分なりのアンカー像を確立させ、インターセプトという武器を身につけたことが大きかったのは言うまでもない。

念のため補足しておくと、青木が奪いに行く守備ができないとは思わない。むしろ元々は前に出ていくことを得意としている選手だったはず。なので、青木が離脱しなかった世界線も見てみたかったというのが正直な思いだ。

 

 

まとめ

アルベル監督がシーズン半ばくらいで「(スタイルを構築しているときには)2歩進んで1歩下がる」といったニュアンスの表現を使っていた。できるようになったこともあれば、できないまま終わったこともある。この相手には通用するけど、あの相手には通用しない。良い内容で勝ったかと思えば、次の試合は何もできずに負ける。そんなイメージの1年間だったように感じる。

例を挙げると、終盤の第27節・柏戦と第31節・鹿島戦の前半では相手のプレスを見事に攻略して主導権を掌握。しかし、第32節・湘南戦、第33節・名古屋戦は、CBにプレスを掛けられてSBへ誘導させられ、そこから前進手段を断たれるという1年を通じて悩まされていた課題が出るなど、試合によって印象が大きく変わった。

ちなみに、個人的に最後まで解決しなかったと感じたことは、サイドで圧縮してくるタイプのプレスを外すことと、ボールを奪うためのプレスの質だ。

ただ、間違いなくいえるのは、「アルベル監督の土台を作り上げられた」ということ。まだ相手によって影響は受けてしまうものの、1つの型は獲得できたように思う。さらには、前述したように長友や東らの新境地開拓や、スウォビィクのプレス耐性向上、渡邊の台頭など個人の成長も多くあった。

すでに選手獲得の話がちらほら出ているように、当然今オフで抜ける選手もいるだろう。一方で、残る選手には1年間の上積みがあり、それを新加入選手にある程度伝えることもできる。アルベル監督が着手できる範囲は今季以上に増えるはずだ。

来季は、できないまま終わったことの精度を高めること、通用しなかった相手に対応できるようにすることが求められる。初年度で作り上げた1つの型から派生させていく作業だ。

2022シーズンで見られたサッカーは、アルベル監督が目指すスタイルの風味程度しか味わえなかったと思う。2023年はその理想形をどこまで体現できるのか、現状からどれだけ進化させられるのか。そういったポジティブなイメージを膨らませることができるだけの2022シーズンになったのではないだろうか。