2022 J1リーグ第1節 川崎フロンターレvsFC東京 振り返り
スタメン
流れ
出口が見えない保持(~20分)
序盤は、攻守両面において新スタイルのリスクが浮き彫りになった。
まずビルドアップは、つなぐ意識が強い一方でマークをはっきりつけられると“息継ぎ”の場所が見つけられなかった。川崎は主にチャナティップが青木を、脇坂が安部を監視するような守り方だったため、後方から安易に中盤へつけられない。実際にマークを受けるその2人へ送ったシーンでは、そのあとのパスがつながる確率がかなり低かったように感じる。
上述のように青木と安部にはわかりやすく監視役をつけていたが構造上、SBにはマークをつけづらい。そのため浮き球で直接届けるか、中盤がワンタッチでサイドへはたくなどして息継ぎのポイントを作れると良かったのではないだろうか。
ちなみに「浮き球で直接届ける」に関しては、スウォビィクからのサイドへのフィードが多く見られたが、キック精度や受けたあとの質がまだまだだったと言える。
また、中盤の2人が抑えられたときの“出口役”として面白い動きを見せたのが、26:20ころの永井。脇坂が安部についていくことを利用し、インサイドで縦パスを受けた。その後パスがズレたものの、サポートの仕方としては今後に生かしたい形だ。小川が浮いていたのでそちらへ落としても面白かったかもしれない。
プレスが効かないハイライン(~20分)
非保持に目を移すと、昨季から大きく変化したのはライン設定。開始直後から最終ラインの押し上げはかなり意識しているように感じられた。一方で前線のプレッシングの質は大きな課題。マルシーニョに何度も背後を突かれたのは、ハイライン×プレッシャーがうまくかみ合っていなかったからだ。
ラインを上げれば間で受けようとする選手を潰しやすくなる一方で、最も危険なゴール前のスペースががら空きになってしまう。近年のハイラインのイメージといえばマリノスが挙げられるが、彼らは前線からの激しいプレスでホルダーから自由を奪うことでハイラインのデメリットを減らすことに成功している(チアゴやGKのカバーエリアの広さも当然大きく影響しているが)。この日の東京にはその部分が足りなかったため、ホルダーが前向きで配球が可能となり、マルシーニョに抜け出されまくったというわけだ。
左サイドを抜け出し、バイタルエリアを占拠(20~35分)
東京の最初のチャンスは23分頃のレアンドロのシュート。左サイドを起点に永井がコンビネーションから抜け出し、レアンドロへ届けた。以降も左サイドを起点に多くのチャンスが作られる。川崎は両WGがCBへアタックに出る役割を持っていたことに加え、あまりプレスバックせずに前目に残る傾向があった。つまりサイドへカバーに出てきたIHをどかしさえすれば、中盤には使えるスペースができる。23分と35分のレアンドロのシュートは、どちらも脇坂のところを突破し、大島をつり出したあとにバイタルへ送る形だった。
余裕をもってボールを持ち、意図した形で前進する(35~45分)
正確に言うと37分頃から川崎がプレスを緩めた。それに伴い、CBに余裕が生まれ、木本の縦パスやエンリケの運び出しで保持のリズムを作ることができた。41:55の「木本縦パス→落としを受けた安部が逆サイドへ展開」の流れはトレーニングの成果を出せた1シーンなのではないか。
プレスを受けると苦しんだが、プレッシャーが弱ければやりたいことができる示せた。それは相手がプレスに出てこれない状況を作り出せれば、自分たちがコントロールする展開に持ち込めるということ。次のステップとして、「取りにいっても取れない」と思わせるパス回しを習得したい。
引き続き余裕をもらえる後半(46~55分)
前半の終わり際から引き続き、あまりプレスを掛けない上、簡単に蹴ってくれる川崎。東京は大きなパワーを消費することなくボールを持つ展開に持ち込めた。攻めは相変わらずサイドで起点を作って大島をバイタルからどかすパターンを狙う。
長友投入で連動し始める右サイド(55分~)
55分、渡邊に代わり長友が右SBに入る。直後の57分には、木本の縦パスからレアンドロと長友の連係でPA手前のFKを獲得するなど、円滑なパス回しを披露。前半はかなり自由な動きが多かったレアンドロだが、後半は右で幅を取っているシーンも見られ、ポジショナル志向への適応が垣間見えた。74分も同様に木本→大外のレアンドロで前進に成功するなど、今後も1つの前進パターンとして確立されるかもしれない。
川崎がマルシーニョ→知念で(川崎からみて)左サイドの守備強化、チャナティップ→塚川で中盤の強度アップを図ったのも、こちらが右サイドを起点にして中盤を占拠できたことが一因になったはずだ。
左でも機能するレアンドロ(87分~)
川崎は遠野の投入(※システムを[4-4-1-1]気味に変更)で流れを引き戻し、81分にセットプレーで先制。ビハインドを背負った東京は87分に永井→紺野の交代カードを切る。紺野が右に入ったことで左へ回ったレアンドロだが、右とは異なる役割で効いていた。
知念の投入で左の守備意識は高まったが、家長がいる右はあまり変わらない。東京が家長が空けたサイドのスペースに送れば塚川が外まで出て対応する。となれば塚川がいた中盤のスペースが空く。そこにレアンドロが入り込み、ポイントを作っていた。
※89:40頃にも似たようなシーンあり
雑感
最後は猛攻を仕掛けて何度もゴールへ迫ったが、結果は無得点の敗戦。ただ、うまくいかない中でもスタイルを貫こうとする意志の強さを見せ、安定して持てればそのスタイルを体現できる自信も得られた。勝点を得られなかったとはいえ、厳しい船出が予想された中で十分な内容を見せられたのではないか。
持たせてもらえればゴールへ迫れることは証明できたため、その状況にどうやって持ち込むかが次の見どころだろう。立ち上がりにロストが頻発していたように、強いプレスが掛かったときのつなぎの完成度はまだまだ。「取りにいっても取れない」と思わせるパス回しができるようになれば、東京は次のステージへとコマを進められるはずだ。
おまけ
FC東京の保持率が上がった理由
東京がボールを大事にする意志を見せたこともあるが、川崎がボールを持つよりも縦に速い展開を選んだことも大きな要因。東京はハイラインを敷き、その裏を何度もマルシーニョに走られた。川崎からすればそこで得点を奪えれば問題はない。一方でその狙いを続ければ、それは東京にボールを渡すことにもつながる。東京のプレスがよかったとは言えない中、保持率を高めて支配する選択肢もあったはず。しかし、彼らはダイレクトな展開でゴールを狙う戦い方を選んだ。
また、後半キックオフ時に川崎は東京とは対照的につながず蹴っ飛ばしてスタート。東京が前半ほどのハイラインを引かなくなった中でも放り込んでくるケースが多く、守備時にも前半ほどプレッシングを掛けなくなっていた。それによりCBに余裕が生まれ、やりたいことが実現しやすくなったと言える。バイタルを効果的に使えたのも、相手のWGが自陣深くまでは戻らないことでサイドで起点を作り、中盤を引き出せたから。川崎も川崎なりに葛藤を抱えており、それをうまく利用できた形が多かった。
東京が2022年の初陣に臨むにあたり最も嫌な展開は、自陣で相手の攻撃を受ける時間が続くこと。なぜならば新体制で取り組んできたビルドアップやハイプレスを試せなくなるからだ。その最悪なシナリオは川崎の出方により回避できたと言える。
もちろん見てのとおりピンチは数多くあり、守備陣がしのぎ切れなければ試合の展開も雰囲気も大きく違っていただろう。その点ではシーズン前の展望でキーポイントとして挙げた「守備陣の踏ん張り」がとても大きかった。それがあったからこそ、自分たちの時間帯を作り、“王者”を相手にゲームを支配し、多くのチャンスを作りだし、自信をつけられた。