「選手が生み出したバランス」 コパアメリカ 日本vsウルグアイ レビュー
がちゃです。
チリ戦のレビューはこちら。
スタメン
日本はチリ戦から 6人変更
GK大迫→川島
右SB原→岩田
CH中山→板倉
右SH前田→三好
2トップ上田&久保→岡崎&安部
メンバー構成的に左から安部、中島、三好という配置も考えられたが、実際は安部が中央に入る布陣となった。
また、チリ戦はトップ下を入れた4-2-3-1だったが、この試合は2トップ気味で4-4-2に近い組み方に見えた。
ウルグアイは負傷したCHベシーノに代わりトレイラ。負傷者以外の変更はなく、ベストメンバーと言える。
前半
中島の守備
まず、最初にここの違いが見られた。中島の守備意識が明らかにチリ戦(特に前半)とは違った。
個人の守備能力の問題もあって、「あれ?戻ってこない…?」という場面が何度もあったが、間違いなくこの試合では守備タスクを持っていたはず。少なくともチリ戦よりは。
ウルグアイの中島対策
守備の難点がある中島だが、やはりドリブルは強烈。ウルグアイは徹底して中島に二人を当てるように守る。基本的にはSBとSHのダブルチームだが、トランジションで間に合わないときはCHが出てくることもあった。
強国ウルグアイでも中島のドリブルは止めるのに苦労したようで、ファウルで止める場面が多くなる。
ただ、そこはウルグアイも許容しているようで、ゴールに近い位置でなければファウルで止めるのはokといった対応に見えた。セットプレーで守り切れる自信があったからかもしれない。
こうなると左SBに入る杉岡を生かした攻撃をしたいところだが、そこのコンビネーションはなかなか生まれなかった。逆に杉岡が上がったスペースを狙われてピンチ!ということの方が多かった気がする。
機能する右サイド
この日は三好が右SHに入ったことで右サイドのボール循環が良くなったように思う。
まず、ビルドアップの話からすると日本は柴崎が下りて3バックを形成するような形が多かった。そこでウルグアイの守備基準をずらしてからCHの位置にいる板倉を前向きにしたい狙い。そこで生きるのが三好。
最終ラインから直接板倉に出すとターンして前を向かなければいけないひと手間が生まれるが、三好を挟むことで板倉は前を向いた状態でパスを受けることができる。
ちなみに安部もこの下りて落とす動きを数回か行っていた。
ウルグアイ左SBの背後
右SBの岩田に展開できた時に相手の左SBが前に出てくる。その背後はSHが戻って埋めるのが基本的な原則に見えたが、そこの戻りが甘いことがいくらかあった。
開始2分頃に三好が日本右サイド奥でフリーになれたのも埋めきれないスペースに入り込めたから。
ここを三好や岡崎が狙っている雰囲気があったが、結果的には利用できるまでに至らず。
日本先制
比較的大味な展開が続く中で先制したのは日本。柴崎のロングフィードから右奥のスペースで仕掛けた三好が右足でゲット。
このシーン、三好に対応していたラクサールの守備が非常に軽かったが、実は三好を追いかけている時点で怪我を負っていた。柴崎からパスが出る直前の場面で腿の裏を抑えているシーンが映っており、負傷した状態で守備をせざるを得ない状況だった。
柴崎のパス精度、左足を切られてからの三好のシュートが見事だったのは間違いないが、相手の負傷という運も味方した。怪我がわかっていてそこを狙っていたのなら、抜け目ない判断でより素晴らしい。
この負傷により、左SBラクサールが下がり、右SBにゴンサレスが入る。左SBには右SBでスタートしたカセレスが移る。右利きのカセレスが左SBになったことで攻撃力が落ちたことも日本にとって幸運だったかもしれない。
2トップ狙いのウルグアイ
対してウルグアイの攻撃。基本的には細かく繋がず、CBから簡単に前に放り込む。1,2回だけトレイラorベンタンクールが最終ラインまで下りて繋ごうとしたが、失敗してカウンターを食らったところからはほとんどロングボールの展開になった。
スアレスとカバーニという個人でなんとかできてしまう強力2トップを生かそうということだが、主に2つの狙いどころがあった。
①2トップのサイド流れ
お互いに4-4-2かつウルグアイが特に可変してこないことで日本としてはマークがはっきりする。相手のSHに対してSBがついていくため、その背中にはスペースが生まれる。そこに2トップの片方が流れてCBからパスを引き出す。
スアレスもカバーニも右サイドに流れて受ける動きは得意としており、片方がサイドに流れてももう片方はPA内で待てるということもあり、攻撃の威力は落ちない。
②CBを引き出した裏
主にGKからでCFへロングボールを蹴る。そうすると日本はCBが前に出てきて競り合うが、この時に生まれる背後のスペースをもう一人のCFとボールサイドのSHが狙う。ハイボールの競り合いからこのスペースになれば一気にシュートチャンスまでという狙い。
植田がVARによってPKを取られたのも②の流れであった。
前半まとめ
ウルグアイは守備のリスク管理をしっかりしながら2トップの圧倒的な質の部分で上回ろうという戦い方。2トップの能力を考えれば合理的な戦い方と言えるだろう。
ただ、リスク管理をすると言っても守備の強度に緩い部分はあり、隙が無かったわけではなく、日本も惜しいシーンはいくらかあった。
前田が中央に入っていくチリ戦の戦術に比べると三好が潤滑油となり、バランスはとれていたと思う。守備面からみても、SHが中央に入らないことでネガトラ対応が遅れにくい効果もあった。
後半
後半も構図は大きく変わらないが、ウルグアイが攻撃に人数をかけるようになったことで、ややオープンな展開になる。
日本が三好の決定機を迎えた直後にカバーニがGKと1対1になる等、中盤が間延びして殴り合う時間もあった。
実るカウンター
またしても先行したのは日本。59分にウルグアイが前がかりになって攻めてきたところをひっくり返してカウンター。途中潰されかけるが、時間がかかりながらもなんとか繋いで日本左サイドへ。ウルグアイはこのサイドへの戻りが間に合わず、中島×杉岡の二人に対応するのはDF一人。2対1からクロスを中に送ってGKがこぼしたところに三好が詰めた。
ウルグアイとしては中盤で遅らせてある程度配置に戻る時間を作れたが、GKのはじいたボールが結果的に最悪な場所へ転がってしまった。
半分事故のような失点だったものの、カウンターを警戒しなければいけないウルグアイとしては非常に不本意な失点だったはずである。
ギアを上げるウルグアイ
戦い方は大きく変えないが、失点をした後くらいから中盤のテンションや強度が明らかに上がった。ボールを持たれることにそこまで抵抗してこなかったが、中盤で刈り取ってやろうという意識が見えた。
人への食いつきが強まる分、プレスを外した後のスペースは空きやすくなるので日本としては得点チャンスが広がるわけだが、DFラインの強さもあって追加点を取るには至らなかった。
そんなこんなで日本2点目の7分後に追い付かれる。
セットプレーからCBのヒメネス。ニアでストーンに入った186㎝板倉の頭上をわずかに超えてすぐ後ろで合わされてしまった。冨安もマークを外したとまでは言えないが、相手に先に入られてしまった。
空中戦の強さを考えるとセットプレーでは分が悪いので、この失点はある程度受け入れなければならないかもしれない。
中盤の構成変更
ウルグアイは75分頃に左SHのロデイロに代えてバルベルデを入れる。
この時にシステムを4-3-1-2のように変更。
中央に選手が多くなったことで中盤の優位性を保ちつつ、大外にはSBを上げてクロス攻撃。
70分頃からはウルグアイにシュートの雨あられを浴びせられるも川島の好セーブとシュートミスに助けられる。
最終盤には岩田(178㎝)→立田(191㎝)の交代でセットプレー対策。1対1対策でもあったかもしれない。
※選手交代後
猛攻をゴール前で防ぎ続けて試合終了。
日本2-2ウルグアイ
まとめ・感想
中島の守備意識の部分やメンバーの変更でチリ戦と比べればバランスは取れていた。
守備が大崩れしなかった理由としてはフォーメーションの噛み合わせやウルグアイの戦い方も関係していたと思う。
ウルグアイはボール保持時にポジション移動をほとんど行わずに4-4-2同士の噛み合わせで全体のマークがはっきりする。それゆえに1対1で負けると一気にピンチにはなるのだが、個人個人の守備の役割ははっきりして守りやすさはあった。
また、ウルグアイは強力2トップへシンプルに放り込むことが多かったことで、日本の守備位置がずらされて穴をあけるといった場面が作り出されなかった。放り込みが多いからこそポジション移動を行わなかったとも言えるだろう。
結果的に微妙な判定のPKとセットプレーの2失点で抑えたが、被シュートは29本(DAZN集計)にも及びスアレス&カバーニの2トップ2人だけでも19本。守備陣が体を張って守っていたのは事実だが、日本が抑えたというよりはウルグアイが決めきれなかったという印象が強い。
対して、日本の2得点は運も味方したが、相手の隙を逃さなかったと言える得点で素晴らしかった。
終わってから振り返ると、この試合で勝てるとしたらVARを見逃してもらうかセットプレーを外してもらうかの運要素になるのではないだろうか。率直に言って、選手の能力差は大きく、どうしても止められない場面というのは何度もあった。
采配について
この試合を表面的に見たときにチリ戦から改善されてる!と見えるかもしれないが、個人的な意見としては選手のキャラクターを変えたことで「改善されたように見える」と感じた。
チリ戦でボール保持時にFWのような位置に移っていくタスクを与えられていた前田とは異なり(このタスクを与えていた理由も不明だが)、三好はベースポジションを動かさずに仕事を全うしていた。前半の項でも触れたが、ビルドアップに関わりながら、空いたスペースを的確に使える三好が入ることでボールの循環は良くなり、バランスが良くなったように見える。これはチームとしての決まりというよりも三好が空気を読みながら動いているからではないかと感じた。
中島翔哉について
チリ戦と比べると「守備やって!」と指導が入ったような中島だったが、マークしなければまずいところでも戻らなかったり、守備のムラは非常に激しかった。
この試合、森保監督は中島をフルタイムで出場される判断をした。何もないところから急に得点チャンスを作り出せる中島に決勝点の演出を望んだのだろう。終盤はウルグアイが前がかりになっており、カウンターから3点目を取れる可能性はあったのでこの判断自体は分からなくはない。賛否あると思うが。
しかしながら、左SHというポジションに固執することには非常に違和感があった。
(これもスタメンの項で触れているが、)この試合のスタメンだと安部を左にして中島をトップ下という選択肢もあった。中島が中央に入ってくる特徴を考えたらなおさら、配置に疑問が残る。安部は所属チームでは左サイド(右サイドもやる)がメインで守備もしっかりできる選手。であれば、安部左SH、中島トップ下の方がバランス良くない?と個人的に思う。
個人的な意見としては使うなら2トップの一角、もしくはビハインド時のジョーカー起用がベターだと考える。
スタートから左SHに置くのはリスクが高すぎる。
皆さんはどうお考えだろうか。
最後に
チリ戦・ウルグアイ戦の2試合でどの選手をどう使えば全体のバランスが保てるかというのは分かったのではないだろうか。あとはこの選手たちの特徴をどうやって生かすのか。
戦術とは選手の強みを引き出したり、弱みを隠すものであるべきだと思う。3戦目のエクアドル戦は各選手の個性を生かせる戦いを見たい。