【FC東京】 開幕節 vs川崎フロンターレ 多摩川クラシコ マッチレビュー
今年もついに私たちのJリーグが開幕しました。
みんなが待ち望んだ日。
スタジアムが近づくにつれてチームのグッズを身に着けた人々が増えていく。
そして嬉しそうな表情。
この光景に毎年のように見ていますが、いつも心に強く響くものがあります。
そして開幕戦から"多摩川クラシコ"。
燃えないわけがありません。
前回対戦では力の差を見せられて敗戦。
オフを挟んでお互いに新戦力を加えた中での再戦。
会場は川崎のホーム等々力競技場。
どんなバージョンアップが見られるのか非常に楽しみな一戦となります。
早速振り返りに入っていきましょう。
スタメンはこちら。
川崎は前回の浦和戦から変更なし。
東京は右SHに久保、左SBに小川を起用。
昨年とベースは同じですが、少しキャラクターに変化が加わりました。
フォーメーションの噛み合わせとしては全ポジションがっちりかみ合うようになるため、お互いにどうやってプレスの基準をずらす・迷わすことができるかが一つのポイントとなります。
最初に補足として入れておくと、この日は非常に風が強かったです。
ボールが押し戻されたり、流されるほどの強さでした。
前半は川崎が風上、東京が風下。後半は逆となります。
~前半~
予想通り川崎がボールを保持し、東京がプレスをかけていく・引いて守るという構図が多くなりました。
川崎のボール保持
開始5分ほどから川崎は守田をはっきりと最終ラインに下ろして3バック化し、大島がアンカーのような形に。主にフリーに動く中村&家長が大島の脇に出入りしてボールをうまく動かしていきます。
両SBは位置を上げてWBのようなポジション取り。
小林は浦和戦ほどはっきりとは中に入らず、小川の前のハーフスペースをうろうろしているようなイメージでした。
これに対して東京は4‐4‐2でセットすることが多かったです。状況次第では前からプレスをかけることはありましたが、中村と家長のサポートや守田の巧みな動きで1stラインは簡単に外されてしまうため、そこまで無理をして追うことは少なく感じました。
深くまで押し込まれた時には、2トップもディエゴが中盤4枚の前にサポートへ行き、永井を最前線に残す形。
まずここで1つ目のポイント。
久保をスタメン起用したけど、守備面は大丈夫なの?
という点について。
これについて個人的な見解を書いていきます。
浦和戦もそうでしたが、川崎は左で作って右を空ける傾向があります。
その影響もありますが、東京は全体を右に寄せて守っていました。
ゴールキック時も全体を右に寄せた形を作ってから蹴っています。
ボールが東京から見て右半分にあればこれくらい寄っていたと思います。
これは久保の守備対策なのではないかと感じました。
久保がいるサイドに寄せてしまえばサポートもしやすく、久保本人の守備基準もわかりやすくさせることができる、という考えだったのではないでしょうか。
実際に左SHに入った東とのタスクには大きな違いがありました。
基本的に久保は室屋とのコンビで車屋&家長の2人を担当。構図的には2対2です。
対して東には以下のような役割が主に3つありましたので、簡易的な図と合わせて見ていきましょう。
①マギーニョへの対応
4‐4‐2ブロックで構えたときに右サイドとは異なり、左サイドにはそこまで寄りません。
そのためマギーニョにパスが出ると東は内からスライドしていきます。ボールとの距離が小川と同じくらいの場合でも小川を手で制して極力東が寄せるようにしていました。小林がいい意味で半端なポジションを取っていたこともありますし、DFの選手はなるべく外に出さないようにしていたのではないかと思います。
②3バック化した右CBへのプレス
ディエゴと永井がプレスをかけて奈良にパスが出たときに中盤から縦にスライドしてプレスをかけに行きます。この時、自分が見ることの多いマギーニョに対して小川がついてきているかを確認しながら出ていっていました。ついてきていなければフリーのマギーニョに出されて無意味なプレスになってしまうため、後ろとのバランスはかなり気にしているように見えました。最終ラインは左にスライドして小林が浮かないようにします。
③左SB‐CB間のカバー
前述した①では極力東が寄せるようにと書きましたが、ずらされてしまいマギーニョに小川が出る場面もありました。その時に左CBの森重はスライドせずに真ん中に残ります。ダミアンや小林が中にいるため、強い選手を中に残したいということでしょう。となると、左SB-CBが空いてしまうのですが、ここを東が埋めます。けっこう距離があってもスプリントで戻って来てしっかり埋めてました。
③についてですが、右サイドはどうだったというとこちら。
こちらでは髙萩が右SB-CB間を埋めに入ります。久保は車屋か家長のマークに専念。
髙萩が最終ラインに吸収されることで中盤の人数が減り、ボールを支配されてしまいますが、その分PAエリア内での危険なシーンはほとんど作られませんでした。
川崎両SHの家長と小林でキャラクターが異なること、左右で攻撃のシステムが違うことも一つの理由ではありますが、明らかに久保より東の方が守備の仕事を多くこなしていました。
1試合だけでは判断できませんが、今季はこれが久保を組み込んだ戦術になる可能性はありますね。
不安視されていた健太サッカーにおける久保の守備ですが、車屋かとの1対1でボールを奪うシーンもあり、役割をはっきりさせれば十分にやれる姿を見ることができました。
東京の狙い
前半のスタッツでは支配率が川崎60%ー東京40%となっていましたが、落ち着いてボールを回す時間はこの数字以上に少なかったと思います。ボールを持った状態でも前を塞がれて閉鎖間のあるボール保持が多かったのではないでしょうか。
ただし、東京はボール保持を一番の武器にしたチームではありません。
昨年から見ている方ならお分かりでしょうが、永井とディエゴを中心としたカウンターから脅威を生み出すトランジション(攻守の切り替え)重視のチームです。
ということでシンプルに永井とディエゴをターゲットにする攻撃が多くなりました。奪って少し繋いでから裏やスペースに走る永井とディエゴをめがけて蹴っ飛ばします。
永井とディエゴの二人は元々1人でやり切ってしまう能力を持った選手ですが、この日はそれに加えて脅威になったものが一つあります。
風です。
最初の方で触れましたが、この日は非常に強い風が吹いていました。これによって川崎CBはかなり苦しみました。
東京としては逆風の風下。通常であれば不利に働きそうな要素ですが、これによってボールが戻されて東京FW2人の元へ収まるように入っていきました。
川崎は前からプレスをかけてきて両SBもあがってくるので、CBとの1対1が生まれやすくなっていました。これによってゴールに直線的に突っ込んだり、時間を作ってサポートを待ちます。
また、久保の守備を軽減させていることでカウンターでは彼がドリブルで運んで行ってチャンスメイクというシーンもありました。
守田と大島が正しいポジショニングを取れないとCBだけで守らなくてはいけなくなっており、川崎はネガティブトランジション(攻→守の切り替え)にやや不安があるように見えました。
逆に言えば、守田&大島のところで奪えてしまえば圧倒的に支配することができるとも感じました。
東京のビルドアップ
基本はトランジションからチャンスを作る狙いでしたが、ビルドアップも昨年との違いが見られたので、紹介します。
まず橋本がCB間に下りて後ろで3対2を作ります。ここまでは昨年もやったことはあると思います。
ここからがNEWパターン。
右SHの久保が真ん中に入ってきてビルドアップに参加。そして髙萩が右サイドの奥に流れます。これにより川崎の左サイドはやや手ぶらな状態になります。
逆に川崎右サイドは2対3の人数では不利な状況。最近よく見るオーバーロードとやらでしょうか。
23:40頃のシーンだとこんな感じになりました。
森重にボールが渡った後の動き。
東が下りてきて小林の前に入ることで意識を向けさせます。
そして小川と髙萩がポジションを交換します。マギーニョは髙萩についていこうとしますが、小川が上がってきたことにより、後ろにとどまります。となると髙萩はフリーですのでそこへ出して起点に。チャンスとまではいきませんでしたが、この形からボール保持での攻撃に可能性を見出していました。
橋本と髙萩が連動して最終ラインと中盤の底に出入りするような場面もあり、昨年より手札と流動性が見られた気がします。
久保の技術が高く、ここでロストしないという計算からできた形とも言えるでしょう。
お互いに惜しいシーンはいくつか作るも決定機というようなシーンはほとんどなく前半が終了。
また、強風によってロングボールのターゲットになるダミアンが落下地点に全く入れず競り合えないシーンが何度かありました。この風は東京に有利に働いていたと思います。
~後半~
後半開始早々は深い位置までプレスに出ていきます。
前半では久保サイドの役割をはっきりさせるようにと書きましたが、後半は逆にこちらサイドから仕掛けます。
前半とは逆に久保が谷口へ出ていき、室屋は車屋にがっちりマークというやり方を試みます。ただし、2トップがうまく規制をかけられていない場合は無理に行かずブロックを組むことを優先しました。
バックパスが出てFWが前から追った時は久保が前に出ていくという役割を与えていたと思います。
アグレッシブなスタイルでボールを奪い、後半開始の10分間は東京ペースで試合が進みました。
ここで川崎が交代カードを切ります。
54分 マギーニョ→馬渡
右SBのキャラクターを変えてきました。
これによって少しポジショニングの修正をしました。
マギーニョは基本外に張っていましたが、中に入ったりもしてきていました。小林はマギーニョと被らないように位置取りしていて、後半は大外で受けるシーンもありました。この時はロストして誰もいない右SBスペースを小川に単独で運ばれました。
試合後の鬼木監督のインタビューでは
「守備のところで機能していなかったところがあったのと、あそこ(右)のサイドで十分時間があったのでもっと行ってほしいというのを期待してカズ(馬渡)を入れて活性化させようとしました。」
とのコメントがありました。
このネガティブトランジション(攻→守の切り替え)の部分も含め、馬渡の投入は右サイドから攻撃を仕掛けようといったメッセージのように見えました。
マギーニョとは異なり、馬渡は完全に大外に張る役割を任されます。そしてWGのような振る舞いで最前線に近いほど高い位置を取りました。
これにより、小林はハーフスペースから中にポジション取りができ、それぞれのストロングが発揮できる配置にはっきりと変わります。
左で家長等がサポートしながらボールを回し、東京をボールサイドに寄せてからCBを経由して大外の馬渡へ。
非常にシンプルですが、東京は疲労の影響や川崎のボール回しスピードに追い付かず、ここの横スライドが間に合わなくなってきます。
馬渡の起点が潰せず交代から10分間、このシンプルな形でピンチを多く作りました。
また、この交代後から川崎右サイドのハーフスペースあたりに中村が入ってくることが増えました。
この半端な場所に入られることで東が中村につきます。となると馬渡へは必然的に小川がつかなければいけなくなります。
小川がSBへ行くとSB-CB間は開きます。前半の部分で触れましたが、ここをカバーするのは本来東のお仕事。しかし、中村と対峙しているため髙萩が代わりにここを埋めます。
これで最終ラインのスペースは埋められましたが、髙萩が動いたことで守田が空いたところを狙って入ってきます。
ここに家長も加勢してきたりして、動いてスペースを作ってそこに入ってくるという作業を繰り返します。
完全に川崎がボールを回し続ける時間となります。
東京も徐々に慣れて対応はしますが、馬渡投入後の54分~70分の約15分の間は全く攻撃ができずに一方的に殴られ続けました。
危険なシーンが何度もありましたが、林のビッグセーブも含めてこの時間帯を無失点で抑えられたことがこの試合の全てだったと思います。
試合後、サポーターからのコールがあったように間違いなく林がこの試合のMVPでしょう。
東京の1枚目の交代カードは
62分 永井→田川
川崎2枚目の交代カードは
73分 ダミアン→齋藤
永井から田川へのスプリンター同士の交代。スピードの強度を落とさずに脅威を与え続けるための采配。
前半は永井を前に残してディエゴが守備のサポートに行きましたが、ここではディエゴ前残しの田川守備サポートの役割分担でした。
個人的には逆の方がよいと思ったのですが、なにか考えがあったのでしょう。
対して川崎はダミアンをあきらめ、サイドで違いを作ろうとしてきます。
実際にこの交代から川崎は明らかに狙いを変えてきました。
先ほどまで右にいた中村が左に移動します。
上図のように中村が4人の中間に意図的に入ってきます。
それぞれの選手は黄字で記載したような理由で中村へはっきりと付くことが難しかったです。しかし、誰もいかないと前を向かれて非常な危険な状態に。CBのヒョンス以外で挟みに行きますがそうすると少ないタッチで齋藤へ出します。そこから室屋との1対1の勝負。中村をところを防ぐ術を見つけられないままこの方法で叩かれ続けます。
しかし、ここで川崎が3枚目の交代カードを切ります。
81分 中村→知念
理由はわかりませんが、この交代は東京サイドとしては非常に助かりました。
中村がいなくなってからは齋藤との1対1が明らかに少なくなりました。車屋とのコンビネーションでエリア内に侵入は許しましたが、中村の役割を行える選手がいなくなったことで構造上の問題は少なくなったと思います。
86分 ディエゴ→ナ・サンホ
東京は3枚目の交代カードで前にフレッシュな選手を投入。カウンターでの1発を狙いましたが、このまま試合は終了。
川崎の攻撃の話ばかりになりましたが、東京もカウンターから川崎守備陣に脅威は与えられていました。どちらもチャンスを得点につなげられなかったという試合だったと思います。
奈良の判定云々で若干後味は悪くなりましたが、開幕戦多摩川クラシコはスコアレスドローで終結。
スコアだけで見れば盛り上がりに欠けたかもしれませんが、開幕の注目カードに恥じない高いレベルの攻防が繰り広げられた素晴らしいゲームでした。
~まとめ~
相変わらず川崎は技術が高く、サッカーを理解している選手が多いと感じました。特に中村憲剛は状況に応じて常に相手が嫌がるところに入ってきます。交代してくれて非常に助かりました。
また、この試合は守田もえげつなかったです。最終ラインでのビルドアップ参加からゴール前まで幅広い範囲に顔を出して貢献しました。
5分 最終ラインで受けてからスペースに出ていってシュートまで行ったシーン、
29分 強風の中で高くまで上がったボールをピタッと止めるトラップ、
50分 ダイレクトで小林へ出したピンポイントパス
派手なものから地味なものまで非常に高い水準でこなしていました。
馬渡、齋藤と鬼木監督も理屈の通った良い采配だったと思います。
対して東京。
ベースは昨年と変わらず。そこに久保建英という新たな武器によって違った取り組みも見ることができました。
そして昨年と一番異なるのは選手層の厚さ。
昨年はディエゴ&永井のコンビで早めに点を取れないと、時間とともに消耗して威力が徐々に弱まっていくということ。加えてSHの負担が大きいのに、代えられる選手がいないという状況がありました。
しかし、この試合は控えにFW田川・ナサンホという特徴のあるキャラクター、SH大森の計算が立つ選手がいます。スタメンの選手を下げても強度が落ちずに脅威を与え続けることができるのです。
さらに言えば開幕直前に加入したジャエルもおり、少し人員過多に思えるくらいFWの枚数は揃いました。
健太サッカーの肝はスピードと強度。
それを90分続ける戦力が整ったと思います。昨年は終盤に大失速し、苦戦しましたが、今期はその不安も少なくなったはずです。
逆に言えば言い訳は許されない状況になったと思います。
今期もJ1全チーム素晴らしいチームで混戦が予想されます。
その中で戦い抜き、最後に頂点に立つことができるか。私たちは期待と声援で後押しをしていきましょう。
次回は第2節vs湘南戦プレビューを予定。
また遊びに来てくださいね!