2022 J1リーグ第3節 セレッソ大阪vsFC東京 振り返り
スタメン
流れ
前半のゲームプランとしては、セレッソも東京もともに「ボールを持って攻める」「前から追って奪いにいく」がメイン。互いの狙いが両立不可な状況で、自分たちの土俵へ持ち込めたのは東京だった。
徹底した右サイドでの数的優位
この日の東京は川崎戦と比べてロングボールが目立った。そしてそのセカンドボールの多くを回収できていた印象が残っているのではないだろうか。その理由は、主に丸橋に対して2対1を突き付けられていたからだと考えられる。
セレッソの守り方の特徴として、「人を見る」よりも「スペースを見る」傾向が強かった。個人に焦点を当てた言い方をすれば、清武は渡邊のポジショニングにあまり影響を受けない。つまり、渡邊が高い位置へ進出してもついてこないため、局所的に数的優位を作れる仕組みになっていた。
ただ、これには当然リスクもあり、CBが寄せきられてしまうと誰もサポートができなくなり、カウンターのリスクが高まる。しかし、その問題と向き合うことはほとんどなかった。理由としては、セレッソの2トップが内側からサイドを限定するように寄せてきたためCBの利き足側が空いていたこと、そしてパスを出した先ではね返されずに済んだことが挙げられるだろうか。
木本の配球が正確だったことに加え、紺野と渡邊が適切な距離感が保たれており、安定して前進に成功。アルベル監督の志向としては、後方でのつなぎからプレスをはがして一気にスピードアップするよりも、敵陣でのプレータイムを増やすほうを好む。相手を無理に引き付ける必要はないため、高確率で前進できるのであれば、それを活用しない手はないのである。
試行回数は少なくとも、左サイドでも原理は同じ。森重が左足でも質の高いボールを蹴れることが大きな意味を持っていた。また、セレッソは全体がボールサイドに寄ってくる傾向もあるため、森重に時間が生まれれば逆サイドへの展開も有効な手段の1つ。右サイドで数的優位を作ってセカンド回収につなげたシーンも何度か見られた。逆サイドへの展開については森重を起用したうまみが出たと言える。
この原理により、ある程度プレッシャーを受けようとも前進に成功し、主導権を確保。敵陣ではWG-IH-SBの連係を軸にゴールへ迫ることができた。
逃げ場を作らせない渡邊の寄せ
一方でセレッソのビルドアップは徹底して丸橋のところを狙う。東京のプレッシングがWGをCBへ出して外を空ける仕組みになっていたからだ。セレッソも本来は中央のボランチを経由して前進したかったのだろうが、そこにはディエゴと松木or安部ががっちりマークについておりリスクがある。そうなればまずはボール保持を落ち着かせるために空いた場所を使おうといった意図だろう。
しかし、丸橋に対しては渡邊が縦スライドで対応することによって封殺に成功。渡邊が前へ出るぶん背後のスペースは空くものの、そこへ出させない間合いを取れていたため問題にならなかった。ここのつぶしが効いたことで、セレッソは逃げ場を作れない。ただ、セレッソ側には「ハイプレスを外してチャンスを作りたい」という欲もあったはず。ゆえにボランチを経由する選択が増え、東京のショートカウンター量産につなげられたのではないかと考えられる。
攻守において狙いがハマった東京が主導権を握り、ショートカウンターから先制に成功。ゴールへ迫ったシーンは数多く作った中で「1点しか取れなかった」とも言えるが、1点リードで後半を迎えられるのは悪くない結果だろう。
後半
前半はうまく試合を運べた東京も、すべてのプレスでハメ切れたわけではない。アダイウトンが西尾にはがされたり、安部のプレスを外されたシーンには、青木の脇に清武や加藤がのぞいてきて起点を作られていた。
前半は青木の“壁を作る”寄せやプレスバックでことなきを得ていたが、試合後のコメントでアルベル監督が
フィジカルコンディションが良い状態までは戻ってきていないことを考慮しても後半に苦しむことは予想していました
と話すように、寄せが間に合わなければ中盤のスペースを使われる展開は想像できた。
実際に3トップのプレスが掛かりにくくなると、前半にはほとんど見られなかったCB→SBのパスが通るようになり、そこからの前進を許すようになる。
セレッソは、前半と同様に清武がアンカー脇をのぞいて受けるケースや、時間を得たSBから直接背後を狙うなどリズムを作り始める。
狙われる渡邊
この流れを汲んでか、CB→SBのパスを出させないよう東京はWGにしっかり外を切らせ、IHを相手ボランチにはっきりつけるようになった。もともとIHが前へ出ていく構造ではあったが、より役割をはっきりさせたのではないかと思われる。これによってカウンターを打てた場面もあった一方、悩みの種も生まれた。SBが本職ではない渡邊とアンカーの青木の負荷が増えたことである。
前半は丸橋に数的優位を突き付けていた東京だが、皮肉なことに後半は渡邊のところでセレッソに数的優位を突き付けられる。
構造的な問題なのかコンディション的な問題なのか、安部のプレスバックが間に合わなくなっていたため、このカバーに入るのが青木の役割になっていた。
後半の東京は右サイドで後手を踏み、そのしりぬぐいをしなければならなかったのが青木。60分、北野とのスペース勝負になり、対応が間に合わなかった青木は2枚目のイエローカードを受けて退場となった。流れ的には、「時間の問題」となっていた事象が60分に「起きてしまった」という言い方ができるだろうか。
数的不利になった東京は[4-4-1]セットで対応。割り切った自陣撤退ではなく、プレスを掛ける戦い方を選択する。それが効果的に機能する場面は少なかったものの、スウォビィクの好守もあって逃げ切りに成功した。
雑感
個人的にこの試合で印象的だったのは、「前進手段はショートパスにこだわらない」「常にアグレッシブな戦い方を選ぶ」の2点。
川崎戦の序盤はショートパスでにつなぎにかなりこだわっていたが、この試合はロングボールの使用に躊躇がなかった。
川崎戦で少し裏のボールが少なかったという指摘もあった
上記の木本のコメントが示すように、どうやら川崎戦から微調整が行われた様子。セレッソの守備基準を見た上での判断でもあっただろう。
また、木本が「良いロングボール」という表現を使っているのも興味深いポイント。ロングボールを選ぶ際にどれだけ意図が込められているかによっても良し悪しが分かれるのだろう。今後はそのロングボールが「良い」ものなのかどうかにも注目したい。
「常にアグレッシブな戦い方を選ぶ」については、後半で後手を踏む時間ができていたのにも関わらず、前から追う戦い方を続けたことと、数的不利になってからもプレスを掛ける意識を落とさせなかったことが印象的だった。
フィジカルコンディションが良い状態までは戻ってきていないことを考慮しても後半に苦しむことは予想していました。そのフィジカルコンディションが影響してか、前からのプレスにミスが発生し、青木がファウルしなければいけない状況になり、退場してしまったことは残念でした
アルベルのコメントを見る限り、後半に落ちることは予想していたと考えられる。実際にプレスが外される場面は多くなり、シュートも打たれていたが、やり方は変えなかった。プレスのラインを下げてバランスを整えたり、渡邊のところに中村を投入して選手の入れ替えで修正を施したり、と選択肢はあったはず。ただ、プレスに出たことでショートカウンターのチャンスが生まれた場面もあった。結果的には裏目に出たが、リスクを背負ってでも追加点を取りにいく判断をしたのかもしれない。
よりボールと試合を支配したいというプランで後半に臨みました
というコメントがあるように、いかなる場合でも「ボールと試合を支配する」ことをテーマに掲げていると考えることもできる。
また、青木退場後の戦い方についても言及している。
(青木選手が退場になった後は)まずは守備ブロックをなるべく下げないようにしたかったのですが、なかなか難しい状況でした
こちらも先ほどと同様で、「よりボールと試合を支配したい」の理想はあったものの、現実が追いつかなかったのだろう。
現在はコロナの影響によって「フィジカルコンディション」というワードが良くも悪くも「できなかった理由」を作ってしまうが、それがなくなったときの完成度がどうなるのか、期待して待ちたい。
※監督・選手のコメントは以下の公式サイトから引用
3/6 C大阪戦 MATCH REVIEW & INTERVIEW | F.C.TOKYO FANZONE | FC東京