J1リーグ第29節 ヴィッセル神戸vsFC東京 レビュー
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直近3試合勝ちなしでむかえた29節・神戸戦。首位を争うためにもう落とせない、というこの一戦を振り返る。
スタメン
神戸は大﨑が出場停止。
そこも含めて大きく変更してきた。
大崎→渡部、フェルマーレン→オマリ、イニエスタ→田中、西→藤谷
前節まで主に2トップの一角に入っていた古橋をIHにし、田中を最前線で起用。
前節までスタメンに名を連ねていた選手が大﨑を含めて4人もメンバー外となった。
東京は1カ所変更。
永井→アルトゥール・シルバ
シルバは今季初スタメン。
この変更によって、システムも今季使いなれた[4-4-2]ではなく、[4-2-3-1]([4-4-1-1])を採用。
髙萩がトップ下に入る。
前半
前から人を当てる東京
まず仕掛けたのは東京。
後ろでボールを持つスタイルをとってきた神戸に対して、前から強めにプレスをかけていく。
キックオフ直後は相手を慌てさせるために、勢いよく出ていっただけのようにも見えるが、時間が進むに連れて東京の守備基準が分かりやすく見えてきた。
※イメージ
1トップに入るディエゴは真ん中に立ちながら、できるだけ3バックを追いかけ、高萩はサンペール番。
SHはベースポジションを守りながら左右のCBを監視して、前進をけん制する。
前から人を当てていくような守備で、プレビューで触れた"27節川崎式"のような守り方を選んだ。
こうすると必然的にSBがWBをマークするようになるため、SB裏のスペースは狙われる。
そこをカバーするのはCBとCHだ。
神戸が保持している際にCHのポジションが低いことが多かったが、これはおそらく神戸のIHが裏に走ってきたときにSB裏をカバーする約束があったため。走り負けて簡単に起点を作られないようにしたかったのだろう。
神戸視点で見ると、東京CHの位置が低いことを利用して、スペースのある中盤に下りて受けてもよさそうと思ったが、いつもそれをやっているイニエスタはいない、といった状態であった。
話を戻すと、CHとCBが神戸の2トップないし、2IHとサイドでのバトルにどれだけ勝てるかという点がこの試合における大事なポイントになりそうな立ち上がり。
↓
※イメージ
結論から言うと、ここのバトルの勝率は非常に高かった。
前からの制限がうまくかかったことも理由のひとつになるが、ボールを持たれても前を向かせない、及び潰す守備がほぼ完遂できていた。これが前半に主導権を握れた大きなポイントだったように思う。
42分に小川慶治朗が投入されてからは、そこの走り合いで後手を踏むシーンもあったが、致命傷になることはなかった。
ボールを奪えない神戸
東京のボール保持はいつも通り、相手がスペースを作ってくれないのであれば無理して捨てることはしない。
前半は神戸が前からの強い圧力をかけてこないため、比較的ボール保持に余裕があった。
ただ、相手2トップと東京のCB2枚が数的同数であることを懸念してか、橋本やシルバが後ろ目に下りるケースは何度か見られた。
神戸がボールサイドに人数をかける割に横の経由地点を消せないことや、単純に圧力が弱いことでパス回しにはそこまで困らなかった。
また、IHの古橋が攻撃時も守備時も高めの位置を取りがち。東京の右SHは内側に入って古橋が空けた場所を使える三田。この噛み合わせの相性も使いながらチャンスメークもできた。
※イメージ
ビルドアップでシルバと髙萩の立ち位置取りが効いていたように感じたので、それを一部紹介する。
~シルバ編~
神戸がGKまでプレスを掛けてくる
↓
シルバがサイドで受けてプレスを回避
16:00頃のシーン。
神戸がIH古橋も加えて前から圧力をかけるが、東京は後ろからつないでいく。
前から人を捕まえに来た神戸に対して、SB室屋のところで詰まってしまうかと思われたが、シルバがサイドに流れてサポート。
神戸左サイドの守備を担当するIH古橋とWB酒井が2人とも前に出ていたため、シルバを捕まえられる選手がおらず、プレス回避に成功した。
大きい枠で見るとこれはマリノスのボランチがよく使うパターン。CHの選手がサイドに流れることで誰がマークについて行くのかを迷わせるポジション取りだ。
このシーンに限らず、何度かこのような動きは見せていたので、チームのスカウティングによる指示か、本人のスペース認識能力によるものなのではないかと思う。
~髙萩編~
SB室屋にIH古橋が、CHにアンカーのサンペールが出てくる。
↓
サンペースが空けたスペースに髙萩が入って受ける。
40:30頃のシーン。
髙萩はボール保持時に限らず、カウンターの場面でもIHがいなくなった神戸の中盤を効率的に使う動きを見せていた。
また、サンペールとのポジションの取り合いでも先手を打ち、前半のうちに警告を与えることに成功。そのサンペールはハーフタイムを迎える前にベンチに下がる。
攻守においてサンペールに1つの仕事も許さずにノックアウトした髙萩が間違いなく前半のキープレーヤーであった。
得点には一切触れていないが、前半のうちにスコアは3-0に。
相手のスローインを奪ったところからの切り替えの早さで取った先制点。シルバのスーパーゴール。ディエゴが1人で神戸の3CBを全員無力化したカウンター。
配置どうこうより、個人のスキルやチームとしての意識が上回ったゴールだったと思うので、説明は割愛する。
前半まとめ
一言でまとめるとかなり出来の良い45分。
攻撃についてはアルトゥール・シルバの(おそらく)生涯1ミドルが決まるなど、できすぎなところはあったが、ディエゴの「俺が俺が」というプレーも明らかに減った印象でスムーズさは感じられた。
守備は前述したように、いつもの形を変えて対応したことがうまくハマり、神戸のボール保持を息苦しくさせることに成功。
スコアも内容も文句をつけることが難しいような理想的な展開になったと思う。
神戸戦の前半を見返したけど、やっぱほぼ完璧と言ってよさそう。
— がちゃ (@sumihiga) October 21, 2019
"ほぼ"なのは構造上エラーが起きやすいところを数回突かれているから。
なぜか神戸はしつこくやってこなかったけど。
後半
神戸ボール保持の微調整
後半開始からも東京の守備構造は変わらない。
一方で神戸は少し微調整をしてきたように見えた。
それがどこかと言うと、左サイドにいるIH古橋の立ち位置だ。
前半は東京SBが前に出たら背後を狙う、という動きがメインだったが、後半からは早めにサイドへ流れる立ち位置を取る。
これによって右SBの室屋は古橋をマークせざるを得なくなるため、WBの酒井に出ていきづらくなり、フリーな状態が生まれる。
※イメージ
前半まとめの項に入れたツイートで「構造上エラーが起きやすいところを数回突かれている」と指摘しているのはこれ。前半にもこの酒井を浮かす形が1回か2回だけあったが、特に狙っている雰囲気はなかった。対して後半は意識的に行われていたように思う。
この形を使われると、シルバが外に出ていくか、室屋がマークを捨てて出ていく必要があるが、どうしても対応は遅れる。
対応が遅れると前向きかつスペースを与えた状態で向き合うディフェンスをしなければならない。酒井くらい能力のある選手にその余裕を与えると、マーカーが剥がされたり、縦方向のパスを許すことが増えた。
また、SB裏に流れる古橋をシルバが止めきれなくなっていたこともあり、押し込まれる時間が長くなる。
※イメージ
防戦一方の東京
深い位置まで入られると、より危険な中央を固める必要が出てきて、サイドが空きやすくなる。
そして、大外での仕掛けに対して、1対1で勝てないとクロスが簡単に入ったりCKを与える。
後半はこのサイドでの勝負になかなか勝てなかったことで、クロスとCKの雨あられに遭ってしまった。
※イメージ
66分、この押し込まれた展開で与えたCKから失点を喫する。
セットプレーはどうしても防げないシーンもあるので、セットプレー守備を修正するというよりもCKを減らすことがこの時間帯の急務となっていた。
ということで、この失点のあと~70分くらいまでの間に守備基準を少し変える。
東京SHが神戸の左右CBに出ていかず、WBの監視意識を強める。
69分にディエゴ→永井という交代カードを切ったが、地味に的確な守備を行っていたディエゴに代わって、やや無謀気味なプレスをかけがちな永井が入ったこともその理由かもしれない。
この微調整でSB裏を簡単に取られることは減った印象だが、代わりにCBへのプレスがかからなくなったことでラインは下がる。
※イメージ
もう放り込まれること自体は許容しなければならなくなった東京は76分に手を打つ。
三田→岡崎
この交代でフォーメーションも[4-2-3-1]から[5-3-2]([5-3-1-1])に変える。
おそらく、サイドからの放り込みに対して中の人数を確保すること、神戸の大外の選手に対してマークをはっきりさせる意味合いがあったと思う。
ただ、1つ疑問だったのが、髙萩をトップ下近くに残したこと。後半に入ってからはアンカーの山口を経由されて困る展開は少なくなっていた。
中盤は3枚が横スライドで中央も固めながら、外にも出ていき、髙萩がそのサポートに入るような守り方。悪くはないが、疲労もたまってきて思考能力も落ちてきている時間ということを考えると、難易度の高そうな選択をしたように感じた。
手を打ったものの、78分頃には髙萩のスーパークリアと林のビッグセーブでピンチを防ぐなど、紙一重のディフェンスが続く。
最終盤、お互いに最後の交代カード。
神戸 渡部→藤本
東京 東→内田
神戸はフォーメーションを変えないまま、攻撃的な選手を増やす。
東京はサイドにフレッシュな選手を入れ、フォーメーションも[5-4-1]に変更。
東京は[5-4-1]に変えたことと、サイドに走れる選手が入ったことにより、守備が安定。
内田にはCBとWBの両方を追いかけてもらうような仕事を任せる。
89分には永井が1人だけで起点を作ったところからボール保持を開始。
藤本とポドルスキと走って死ねるタイプではない2トップになったこと、フル出場の中盤3枚に疲弊が見えていたことで神戸は全く奪いに来れない。
ということで、無理せずパスを回して時間を消費し、終了の笛。
結果的に最終盤は落ち着いた運びで締めることができた。
神戸1-3FC東京
感想・まとめ
これまではいわゆる「自分たちのサッカー」を貫いてきた東京だが、この試合では神戸対策とも取れる布陣変更や試合終盤の新しい締め方を見せた。
勇気ある決断が結果につながったことは残りのシーズンを戦ううえでも大きい要素だと思う。
そして、3試合未勝利が続いていた中、欲しかった勝点3を得ることに成功した。これがこの試合における最も大きいトピックと言えるだろう。
前半のポジティブな面、後半のネガティブな面(うまくいかなかった面)、いろいろな流れはあったが、(今節は主力を複数欠いていたけど)リーグ後半戦で好調だった神戸を叩けたことで今後勢いが出るかもしれない。
今回の良いイメージを保ちながら上向きな状態を維持したいところだ。
これで鹿島とは勝点で並び、勝負は振り出しに。
これまでは首位として追われる側の時間が長かったが、またここからが再スタートと言えるだろう。
もう一度先頭を目指す道のりが始まる。