「最重量級の先制点」 J1リーグ第21節 FC東京vsセレッソ大阪 レビュー
がちゃです。
第13節でリーグ戦初黒星をつけられたセレッソとの再戦。FC東京のホームでリベンジとなったのか。
スタメン
東京は事前情報の通り、小川がメンバー外となりオ・ジェソクがスタメンで移籍後初出場。
また、前節メンバー外となっていたナ・サンホが復帰しベンチ入り。
セレッソは前節からスタメン変更なしで予想通りの布陣。
ソウザと柿谷がメンバー入りし、高木がベンチ外となった。
振り返りの前に
この試合から新しい競技規則が適用となり、ルールが新しくなっている。
攻劇さんのブログにおおよその説明があるのでこちらをご確認頂きたい。
これに加えてこの試合で起こったのはコイントスで陣地だけでなくボールを選べるようになったこと(これについては今までと大きな変化は出ないと思われる)とゴールキックを味方選手がPA内で受けられるようになったことだろうか。
全てを網羅することはできていないはずなので、各々でルールを確認して頂けると助かる。
前半
個人のミスが目立つ東京
両者ともに落ち着いた立ち上がり。20節の清水とは違い、一気に畳みかけるというよりも安定した試合運びをしようといった様相で進む。
お互いにボールを失うと自陣の危険な場所を素早く埋めて陣形を整えるため、縦に速い攻撃はなかなか仕掛けられず、ボールを持っても守備網を突破できる雰囲気はあまりなかった。
両チーム、ボール保持から相手の強固な4-4-2ブロックを崩さなければならないという似たような状況になったが、決定的に異なっていたのがゴールキック(または最後方からのセットプレー)。セレッソが新ルールを生かしてPA内でCBがボールを引き出して繋ぐのに対し、東京は繋がずに前へ蹴っ飛ばす。東京は深い位置でのビルドアップはあまり好まないので、放り込んで敵陣でのプレー時間を増やしたかったのかもしれない。
この試合ではボールを持ちたいのはセレッソの方で東京はそれを許容。セレッソは何度か前から追う場面があったが、東京はセレッソが新ルール(ゴールキックでPA内に入れる)を使うまでもないくらい深い位置でのプレスは行わなかった。どちらも4-4-2の1stライン(2トップの位置)をハーフウェイラインより少し前くらいに設定していたが、上記のような差があったように見えた。
お堅い展開の中でもチャンスを作ったのはセレッソ。8分の髙萩の不用意なバックパスや10分の渡辺の処理ミスからメンデスのシュート。いずれも防いだが、個人単位での致命傷になりかねないミスが続いた。
セレッソボール保持
セレッソのビルドアップは藤田を1列下ろした3バック化が多く行われた。
※イメージ
東京の2トップは前から追いかけなかったので3バックにしなくても落ち着いたボール保持はできたと思うが、セレッソが狙っていたのはおそらく2トップ脇からの侵入。東京2トップがCBからの前進を邪魔するのであれば逆サイドへ展開してから前進を狙う。東京は前二人が「気合で3人見る!」という守備ではなかったので、追いきれないときはボールサイドのSHがどうするかを伺う。前に出てくるのであればその背後が空き、出てこないのであればCBがそのまま運ぶことができる。
↓
※イメージ
大森からずれを作りたいセレッソ
清水戦と同様に東京右サイドの大森の方が前に出ていくことが多かった。東はCBよりもSBへ意識を置いていたように思う。
よってセレッソは大森を動かしてチャンスを作ろうとする。
※3分のシーン①
2トップが追いきれなくなったところで瀬古から前進。清武が引いてからサイドへ開くことで大森の意識を引き付け、その脇を通す縦パス。外に張っていた丸橋は清武が開くのと連動して内に入る。
↓
※3分のシーン②
丸橋に入ったところで室屋と渡辺の二人が食いつくが、丸橋はワンタッチ目で外して背後へスルーパス。メンデスがオフサイドとなり助かったが、CBの前進からマークをずらされたことで崩されかけたシーンだった。
東京守備のキーマン大森
15分あたりから大森が前に出て瀬古への監視を強めるようになった。
数を合わせる(2トップ脇からの前進を防ぐ)ために左右非対称な3トップ化のような形。
大森という明確なマーカーがつくことでセレッソは横パスを瀬古につけにくくなる。そうなるとセレッソは3バック化した中央の選手(主に藤田か木本)から直接大森の裏にいる丸橋に出してしまおうといった手段を取る。
※15分のシーン(この時は木本が下りている)
前向きの準備をしている大森は戻ることが難しいため丸橋へは室屋が出ていくが、その裏をメンデスが狙う。そこで直接ゴールへ向かえなくとも東京のブロックを押し下げることができた。
この室屋が出ていった裏のスペースにメンデスが入ってくる形はかなり徹底されており、メンデスvsCB渡辺はメンデスに分がある印象だったのでそこを狙っていた部分もあったかもしれない。
また、セレッソは清武や水沼が中央寄りで受けることで東京の中盤を内側に引き付けてSB(特に右の松田)を浮かせようとしていたように思う。そして外で時間を得たところでクロスを2トップへ供給する。
東京もゴール前の陣形が整っていたためシュートを打たれるまでは至らなかったが、リーグ戦の前回対戦時のようにどこかで一撃が決まることを期待していたのかもしれない。
少し補足を入れると17分頃に東京は橋本と髙萩の左右を入れ替えていた。下りてくる清武に対して髙萩が前に出る役にしたかったのだろうか。ここについては会見などでも詳しく触れている部分が見つからないので意図はわからないままである。
25分、ここまで構える守備が多かった東京が唐突に前へ激しくプレスをかけた。
これに対してセレッソはGKも加えながら強気に繋いだところを東京が高い位置でカットするも大森のグラウンダークロスは人が密集したゴール前をすり抜けて逆サイドまで流れた。
前半唯一能動的に仕掛けた場面だったが決めきれず。欲を言えば決めきりたい場面だった。
27分飲水タイム。両チームともにベンチ前に選手・スタッフが集まって話し合いが行われる。
30分を過ぎたあたりから東京も徐々に敵陣でボールを保持してコントロールできるように。
33分、34分と左から森重、東のサイドチェンジで右サイドに届けて時間とスペースを提供するもその時間の貯金をうまく使えずに結局やり直すというシーンが続いた。
2トップも含めてセレッソの守備陣を片側に寄せてから逆サイドへ展開出来ているのにそこからの狙いがなかったのは非常に残念だった。
※34分のシーン
特に34:10頃のシーンでは渡辺が運ぶドリブルを行わない前提のような大森の立ち位置。前に張っていた髙萩と室屋の入れ替わりでマークを混乱させるような動きもなく、個人的な感覚だとボールを持つためのボール回しのようにも見えてしまった。
確かに渡辺は配球やビルドアップ面についてはやや不得意なため、リスク管理という意味もあったかもしれないが、ボール保持で点を取りに行くならもう少しチャレンジしてもいいのでは、と感じた。
ここからは勝手な個人的理想。
渡辺に渡りそうになった段階で大森はライン間や2CHの間、もしくは脇あたりに移動してほしかった。そして渡辺はスペースにボールを運ぶ。
運んだ時にDFが寄せてきたらその選手に合わせて対応を変える。
清武が寄せてくるのであれば外の室屋に出せば丸橋に2対1を突き付けやすい状況ができる。
※イメージ
CHの藤田が寄せてくるのであれば中央の永井や大森に預けてそこからコンビネーションで中央突破を狙う。
※イメージ
誰も来ないのであればライン間や裏へパスを配球。
机上の空論かもしれないが、このように相手をずらす、来ないならフリーでボールを持てるという術を使えるようになると強みが増えると感じた。
個人的理想論終了。
35分あたりからは東京が2トップ脇からの侵入を許すことも増えてくるが、ゴール前のエリアを使わせないことと危険な場所で前を向かせないことは徹底しており、それほど危ないシーンは作られない。
また、セレッソビルドアップ時にアンカーポジションにいる選手(主に木本)にボールが入ると2トップがプレスバックするという役割をこなしていたため、縦に速い展開も許さない。
45+1分には清武が逆サイドまで流れてきたことでマークが曖昧になり、サイドを抜け出されるといったシーンがあったが、ゴール前で阻止。
東京も終了間際に室屋の連続仕掛け&クロスでわずかに可能性を見せるもそのまま前半終了。
前半まとめ
保持率は約4:6でセレッソが持つ時間が長かったが、決定的なチャンスは渡辺が処理を誤ってメンデスにフリーで打たれたシュートくらい。組織が崩されたシーンも11分の丸橋のマークがずれたシーンと終了間際の清武がサイドを抜け出した2つくらいでどちらもゴール前は固められていた。
保持率に偏りが出たことと個人単位のミスが目立ってしまったことで押されている印象を持つ人もいたかもしれないが、東京から見れば失点をしなければokくらいだったと思うのでそこまで悪い印象は受けなかった。
「前半は私自身が選手の手綱を引っ張って、前から行かせないようにした。」(長谷川監督)
「飲水タイムを含めてみんなで修正して、そこからは自分たちが相手に時間を与えないいい守備ができたと思う」(森重)※FC東京公式HPから引用
https://fctokyo.co.jp/game/2019080302
監督・選手のコメントを見ると前半に引くことは指示で出しており、後半勝負という考えがあったのかもしれない。また、大森の守備位置や25分あたりから前プレを行ったのもピッチの中で意思疎通を行って修正していた可能性がある。飲水タイムを挟んでの大きな修正があったのかはあまりわからなかった。
東京はアタッキングサイドが右サイド65%(DAZN集計)と非常に珍しい数字が出た。これはビルドアップの中心であった左SBの小川がいないことが影響しているだろう。
後半
後半開始直後、セレッソがボールを下げると東京の選手は深くまで追いに行く。
「後半は好きに行っていいと伝えた。」(長谷川監督)
監督コメントを見ると後半からはよりアグレッシブな姿勢で臨んだことが読み取れる。
47分、意外にも早く試合は動く。
左から上げた東のクロスに永井が高い打点で合わせてゴール。セレッソGKキム・ジンヒョンが飛び出してきたが先に触られてしまった形に。ジェソクのランニングで東を一瞬フリー状態にできたことが地味に大きかった。
実は得点シーンと少し似たパターンが前半44分にもあった。ジェソク→東とパスを出してから、ジェソクが前に走り出すことでマークを引き付けて東に時間を与える。44分もこれによって東がクロスを上げる時間を生み出していた。
小川のような配球はできないが、多くの人にとっておそらく”守備の人”という印象があるオ・ジェソクが攻撃でもしっかりと貢献した。
得点後も前から行く姿勢は変えない東京。自陣を固める守備から前から奪いに行く守備へと完全に移行していた。
DAZNだとリプレイが流されていてしっかりとは映っていなかったが、再開直後のプレスもハメていてセレッソ陣内PA付近で奪取に成功していた。
セレッソは得点を取りに行かなければならない状況、東京は前から奪いに行く守備ということで前半にはほとんどなかったオープンな展開に。お互い前に人数をかけるため、ゴール前のDFも薄くなりやすいことが多かった。
56分、セレッソの選手交代。
奥埜→柿谷
そのままのポジションに入り、よりアタッカー色の強い選手を増やす。
セレッソはサイドからのクロスを中心に攻めていくが、東京ゴール前は手厚く跳ね返し続ける。
中央を突破しようとすれば複数人で一気に囲い込み奪う。クロスやセットプレーがピンポイントで合うことを待つような攻撃になっていたと思う。
66分、選手交代。
セレッソ 藤田→ソウザ
東京 大森→三田
どちらもそのままのポジションに入る。セレッソは展開力やミドルシュートがあるソウザを入れて攻撃的に。東京は少し疲労が見えていた大森を下げてフレッシュな三田を投入。
交代直後のプレーで三田がボール奪取し、その後ファウルをもらってFKを獲得。そのFKから森重が合わせて追加点が生まれた。
三田に期待するプレーが全て再現されたような2分間の出来事だった。
得点後、東京はプレスラインを下げる。2点リードとなったので逃げ切りを軸にしながらチャンスがあればカウンターも狙う戦い方に。
セレッソはソウザを入れたことでサイドチェンジが増えて右からのクロスを狙う。また、中央を固める東京に対してミドルでこじ開けようとする場面もあり、ゴール前でのシーンを増やすことには成功していた。
76分、選手交代。
東京 永井→ジャエル
セレッソはCHをより前に出ていけるタイプに。東京はスプリントの多かった永井を下げて個人でキープできるジャエルを投入。
※76分交代後
リードしている東京が攻撃的なカードを使っている印象もあるが、守備の枚数を増やしても押し込まれてしまう。前線で収められる選手を入れてイーブンのボールをマイボールにすることで実質的な守備の時間を作りたいということだろう。攻撃的に見えるが、実質守備を考えた交代にもなっていると感じる。
東京守備の撤退の色が強くなった80分前後くらいからはディエゴも積極的にプレスバックを行い、セレッソのCHをマークする。
※イメージ
86分、脚を痛めた(?)東に代えてナ・サンホを投入。
90分にはパスカットしたサンホが左サイドを独走してCKをゲット。そのCKの流れからジャエルのトリッキーなパスをディエゴが決めて勝利を決定づけた。
この二人のブラジル人にはなにか通じ合うものがあるらしい。
そのまま試合は終了。
FC東京3-0C大阪
感想・まとめ
先制すれば東京は強い。清水戦に続きそんな試合だった。
セレッソはリーグ戦では先制した試合で負けたのは1試合のみ。逆に先制された試合は全敗。そんな先制点を取ることが最も重要な相手だったからこそ、先に得点できたことは非常に大きかった。
「我々が落とした試合だった、という印象。前半、良いプレーができ、ボールを支配して相手にほとんど攻撃のチャンスは与えなかった。ただその中で、自分たちもゴールを決めることができなかった。」(ロティーナ監督)
「自分たちでも、前半は手応えがありました。」(瀬古)
※セレッソ大阪公式HPから引用
https://www.cerezo.jp/matches/2019-08-03-19/
セレッソからしても前半の出来はある程度満足だったようで、その中で得点を取り切れなかったことが結果的に敗因となったかもしれない。
東京は途中出場の三田・ジャエル・サンホが攻守に貢献し、全員が得点に絡む活躍。小川の怪我によって出場機会を得たジェソクも安定した働きで「夏場は総力戦になる」という長谷川監督のコメント通り、チーム全員で掴んだ3-0の勝利だった。
相性の良くなかったセレッソにホームでリベンジし、ホーム3連戦初戦を良い形で迎えることができた。次節もアウェイで敗れている仙台。再びリベンジとなるだろうか。